防災に関する情報を、
「アップ」して「ストック」する。
2011年3月11日、東日本では約2.9万の携帯電話の基地局が停止するなど、大規模な通信障害が起きた。固定・携帯電話の代りに活躍したのが、フェイスブックやツイッターなどのSNSだった。安否を問うもの、被災地で必要なものを訴えたもの、それに応えるものなどの情報が大量に飛び交った。
「小さなアイデアでも物資がない状況では何か役に立つかもしれない情報」をツイートしていた太刀川大輔氏は、同じように自分が持っている・知っているアイデアを発信したいという人がたくさんいるということを知った。しかし、情報は短時間に大量に集まるが、あっという間に更新され、流されていく。外部からの支援が来るのに3日間かかるといわれていたのに、これではその時に必要な情報が得られない。”すぐに消えないデータベース“を作って、誰でも投稿でき、誰もが必要な情報を見られるようなものが必要だと太刀川氏は感じ、立ち上げたのが「防災分野のwikipedia」の「OLIVE」サイトだ。
震災2日後に立ち上げると、限られた資材で生きのびるためのアイデアが最初の1週間で100以上集まり、3月のページビューは100万を超えた。
- 2011年3月13日に立ち上がった防災のWiki・OLIVEサイト。A3サイズでダウンロード・印刷できる形にして被災地へ届けられた。
アイデアをみんなのものに。
その信念から生まれました。
身の回りにあるものを使って生きる知恵や工夫を集めたOLIVEのサイトの立ち上げがこれだけ早かったのは、太刀川氏がもともとデザインをシェアするプラットフォーム「オープンソースプロダクト」のサイトの準備を進めていたからだった。
建築家やプロダクトデザイナーの作りだすアイデア、いわゆる「ものの作り方」は、その個人や企業に属する“聖域”だとされてきたが、その「ものの作り方」をオープンにシェアしていけば、デザイナーでない人も同じように“もの”を作り出すことができる。自分の力で何かを作りだすという人間にとって根本的なことを取り戻すことが、これからのデザインにできることではないかと太刀川は考えていた。
その構想を実現しようとしていた矢先に、東日本大震災が起きた。情報や物資が不足している中で身の回りのもので生きのびるための“知恵と工夫”を、皆で提供し共有する。まさにこのオープンソースプロダクトが目ざすところと同じだった。氏の「オープンソースプロダクト」への信念が、OLIVEのベースとなっている。
- 太刀川氏も実際に避難所を訪れ、避難所の現状についてヒアリングを行った。
- OLIVEサイトに寄せられた知恵や工夫について避難者の方に説明する太刀川氏。
- 避難所には、OLIVEの情報をプリントアウトし、クリアケースに入れるなどして届けた。